2025年10月29日に行われた海上自衛隊第4術学校(京都府舞鶴市)海曹給養課程の調理実習教務で「銀座 八五」の店主 松村康史が講師として参加しました。
松村がラーメン屋に転身する前は、約36年の間にわたり京都でフレンチシェフとして活躍しており、その頃から約17年間にわたって同校で西洋料理の外部講師を務めてきました。しかし、この度講師を引退することを決意し、今回が最後の教務となりました。今後は京都「Bistro OKUDA」のシェフであり、京都調理師専門学校での教務経験も持つ奥田茂一シェフにその役を引き継ぎます。
調理実習教務は、海上自衛隊の中でも艦艇や陸上の基地で隊員の給食を作る給養員の知識習得や技術の向上、さらには外交時のレセプション料理の調理技術習得を目的として行われています。今回は海外寄港時のレセプションを想定したビュッフェ形式の西洋料理実習で、海曹の隊員13名が参加しました。松村にとって最後の教務ということもあり、特別に取材の機会をいただきました。その調理実習教務の様子をお届けします。
●教務の打ち合わせ
まずは実習が始まる前に手順やスケジュールの打ち合わせをします。今回は引継ぎを兼ねた教務ということもあり、いつも以上に念入りにレシピや作業の流れを奥田シェフと確認しました。

(奥田シェフ㊧と松村㊨)
●調理メニューの説明
実習を受講する隊員は毎回異なるため、まずは給養科長から松村の紹介があります。その後松村から本日調理するレセプション料理15品のレシピの説明を行いました。隊員は熱心に耳を傾け、自身が担当する料理のレシピにメモを取りながら理解を深めていきます。

(細かくレシピの説明をする松村と、メモを取りながら熱心に説明を聞く隊員)
●調理
説明が終わるとすぐに実習が始まります。それぞれが担当の調理場につき、準備を進めていきます。普段はラーメン作りに全力を注ぐ松村も、講義の際は教える立場として、いつもとは違う表情に変化します。

(スズキのおろし方を実践してみせる松村店主㊨と真剣な眼差しで手元を確認する隊員㊧)
調理実習では、調理器具の正しい使い方から、鮮魚のおろし方、丸鶏のさばき方、調理過程のポイントや盛り付けに至るまでを丁寧に指導します。隊員たちは普段、隊員向けの給食調理が中心で、レセプションで料理を振舞う機会は決して多くありません。普段の給食と、おもてなしを意識した西洋料理はほとんど別物ですので、松村や各ジャンルの料理人たちが担当する教務では、プロの視点で細やかな指導を行います。
隊員からは、「部隊での給食作りでは、一から出汁を取ったり、丸鶏をさばいたりすることはないので、教わった本格的な調理技術をそのまま活かせる機会は限られています。しかし、知識として持っておくことで様々な場面で応用が利くようになるので、今日の講義のように専門的な知識を学べる教務はとても役に立っています。」と話していました。

(丸鶏のさばき方を教える奥田シェフ㊧と、丁寧に確認を重ねる隊員㊨)
海上自衛隊の給食は、業務負担や食中毒リスクに配慮した大量調理を行うため、本格的に1から調理をする機会はほとんどありません。そのため、隊員にとってプロの料理人から直接学べる実習は、レシピだけでは得ることのできない知識や高度な技術を習得できる貴重な機会になっています。そしてそれはレセプション時だけでなく、給食調理時に応用して活かされている場面もあります。
別の隊員は「通常船上ではガスを使用できないため、都度どのような調理方法が最適なのかを考えます。そういった場面で今日のような実習で得る知識が役立つと思います。」と話していました。
特殊な環境下に長期間置かれる場面もしばしばある海上自衛隊は、限られた設備の中で美味しい料理を作る技術が必要になります。例えば、長期の渡航になると冷凍食材を使用することが増え、フレッシュな食材が使えないことがあります。そうした場面で食材の組み合わせや調理方法を考える際に応用を利かせることができるようになるのです。
そして、レセプションを想定した料理では、味だけでなく見栄えも重要になります。料理の美しい魅せ方を意識した盛り付けも丁寧に教えていきます。

(松村指導のもと隊員の手で盛り付けられたスズキのロースト)
●作成した料理の成果確認
調理実習の最後には学校長をはじめとする幹部職員をお招きし、作成した料理の成果確認をします。代表の隊員は、どういった工夫がなされている料理なのかを学校長たち幹部職員に説明します。

(説明を受ける海上自衛隊第4術学校学校長㊧と料理の説明をする隊員㊥)
少々緊張気味に見えた隊員も、幹部職員と共に料理を囲み皆笑顔で食事を愉しんでいました。

(幹部職員㊨と会話を交わしながら食事を愉しむ隊員㊧)
●海上自衛隊第4術学校 学校長から記念品贈呈
今回は松村にとって最後の教務だったため、学校長から記念品の贈呈が行われました。

(海上自衛隊第4術学校学校長から感謝状を受け取る松村)
感謝状に描かれているのは海上自衛隊第4術学校の公式キャラクターで給養業務がモチーフになっているタマキューヨちゃん。今回は松村に合わせて特別にラーメン屋仕様のイラストを描いていただきました。

(ラーメン屋仕様に描かれたタマキューヨちゃん)
最後は隊員たちによって花道がつくられ、「ありがとうございました!」と感謝の言葉が飛び交っていました。

(隊員に拍手で見送られる松村)
こうして、松村は約17年に及んだ講師としての務めを果たしました。
●海上幕僚長からの表彰
日を改め2025年11月14日、ホテルグランドビル市ヶ谷で行われた令和7年度自衛隊記念日において感謝状贈呈式に招待いただき、松村の長年の尽力を称え海上幕僚長より表彰いただきました。

(海上幕僚長㊧から感謝状を受け取る松村㊨)
松村は、「少しでも今まで教えてきた隊員たちの役に立てていれば嬉しいですね。私も歳をとり、舞鶴まで出向くことが難しくなり講師を引退しましたが、これからも別のかたちで携わる機会があれば嬉しいです。もちろん、要望があればラーメンも振舞いますよ。」と笑顔でコメントしていました。

(会食の席で笑顔を見せる松村)
長年に渡りこのような光栄な役割をお任せいただいた海上自衛隊関係者の皆さま、ありがとうございました。

(感謝状贈呈式での記念撮影)